ゆりおろぐ

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岡檀『生き心地の良い町-この自殺率の低さには理由がある』が面白すぎると私の中で話題に

まさか電車の中でげらげら笑いだすのをこらえるのに苦労することになるとは思わなかった。岡檀(おかまゆみ)著『生き心地の良い町ーこの自殺率の低さには理由がある』を読んだ。

 

 「ちょっと笑いのつぼおかしいよね」と言われがちな私の感性をさしひいても、いかにも真面目そうなタイトルのこの本のアマゾンレビューに「一気読みしてしまいました」とのコメントが並ぶのを見れば、この本になにか魅力があるということは伝わると思う。

 

中身は、これまでの通説「絆が自殺予防に重要」を打ちのめす調査結果や、「えっそんなことがあるの!」という意外でギャップあふれるエピソードであふれており、地域や町づくりやヒトのつながりに興味のある人にはたまらない本であると思う。

 

舞台は、徳島県海部町。

「自殺がものすごく少ない地域」海部町を主に調査することで、「自殺を引き起こさない原因」を探っていく。

 

海部町は、日本の内陸の町でもっとも自殺率が低い。「17年間自殺率ゼロ」と話題になったこともあるという。しかし海部町の両隣にある、さして環境の違わない2つの町では、自殺率が全国平均並みにあるというのである。

 

産業構造も病院や学校へのアクセスも住民一人当たり所得も三大疾病死亡率にも大して違いはなく、「同じように」自殺の原因ー健康問題、経済問題は存在している。にも拘らず海部町の自殺率が突出して低いのは、「原因がありながら自殺に向かわせない何か」予防要因があるのではないか。そんな仮説をもとに調査が進んでいく。

 

著者が学生時代に研究した記録であり、等身大でぶつかる雰囲気が感じられるのも楽しい。

「病は市に出せ」ー自殺最希少地域は「うつ」受診率が高い

面白い話がいっぱい詰まっているのだが、特にインパクトの強かったエピソードを紹介したい。

 

海部町の人は、面と向かって相手に

「あんたうつになったんと違うん。早ぅ病院行き」とずけずけ指摘する。

 

そして近所のなんとかさんが「うつ」になったらしい、と聞けば、

「ほな、見に行てやらなあかんな!」

「いてやらなあかん!」

と口々に言うのだという。

 

うつの人の見舞いに行こう!と言うのである。

「うつ」に対する、声をひそめて眉間にしわをよせてうわさで囁く「あら・・・大変ね・・・お気の毒に。」・・・そんなほの暗いイメージを軽快に吹き飛ばすエピソードであり、思わず吹き出した。

 

そうだよね、うつぐらいなるよね!うつになったらみんな来てくれるんだったらきっと治っちゃうかも!そしていつかその辺の人がうつっぽかったら、やっぱり「あんたうつになったんと違うん」とかずけずけ言い、病院を勧め、気軽に見舞うのだろう。

 

そんな町、住みたすぎる・・・。

実際、海部町のうつ受診率は周りの2町より高いのだという。特徴として、軽度の状態で来診するそうだ。

深刻な状況になる前に対処する。困ったことや悩み事は、どんどん話していくことで、いい病院や薬を紹介してもらえたり、アドバイスをもらえる。

 

そんな「病は市に出す」文化が根付いているそうだ。深刻な状況まで黙らせておくと、借金や病気など周りを巻き込んでしまうことになるから、結果的に大トラブルとなる。軽い段階でどんどん悩みを吐かせることが、この町の最大のリスクマネジメントなのだ。

 

淡泊でゆるやかなつながり

そんな軽妙な海部町であるが、

周囲の人とのコミュニケーションは、基本的に淡泊なのだという。

困ったことがあれば助け合うが、通常は「あいさつ・たち話程度」がほとんどとのこと。サロン的に近所の家の縁側で話し合う姿はあちこちみられるらしいが、何時に集まるとか誰が来るとか決まりごとは一切ない。

 

海部町では、だれかが老人会や祭りの手伝いに参加してもしなくても、あれこれ言われることは無い。基本的に個人の自由である。

口癖は「そんなん「野暮」て言われる」である。「誰かと一緒にしなきゃいけないなんて野暮」「だれに投票せいて強制するなんて野暮」「年上だからって年下をいびるのは野暮」

「恥」の文化ならぬ、「野暮」の文化なのだ。

 

海部町は、歴史的にソトモノが一攫千金を狙って集まってきたコミュニティであるという。バタバタと集まってきた人たちで作ったコミュニティだから、家柄や財力でなにかを判断するような状態になく、結果として、個人の資質を見極めて人事を決めざるを得なかった。

 

代々続くお家柄やレッテルを背負っていないから「家の恥」なんて観念もない。そんなことよりお前は何ができる人間なのだ、そこが重要だ。

レッテルを張られることもなく、1人1人の町で育ってきた規範が「野暮」なのだと。

 

対して、自殺最多地域のある町では、非常に緊密なつながりがあり、お互いに助け合って暮らしてきた。

助け合って暮らしてきたから、相手が困っていたら、自分も大変な状況であっても全力で助ける。お互いにそれをよくわかっているから、ちょっとした悩み事や、困りごとを、気軽に口にすることができないのだという。「迷惑をかける」そんな言葉を口にすることが多いとか。

 

著者は、自殺最多地域と自殺最少地域を行き来し、最多地域に住むとあるおばあちゃんと話をする。

「海部町では「あんた、うつになっとんと違うん」とかつっけんどんに言うんですよ」というエピソードをおばあちゃんに紹介すると、

 

「そんなん、言ってもええんやねえ」 

と、2回もつぶやいていたそう。 

 

著者の岡さんは、最後にこの海部町の町民気質からまなび、明日からできる「自殺しない」取組を提案する。

 

長い時間をかけてはぐくまれた海部町から、何を学べるか。何を生かせるか。

コミュニティカフェを作るにあたって、何を目指すべきなのか。

「深すぎる」「重すぎる」つながりの怖さも思った。

「そんなん野暮だね」という価値観も真似したいと思う。かっこよくあるために、多様性を大事にするような。

 

軽いタッチで気軽に来れて、遊べて、ふいに悩みをぽろっと口に出せて、みんないい無責任感でよく聞き、ざわざわとなんか食べて飲み、そしてそれぞれ帰っていくような、あまり深刻でなく生きられる手助けができたら!

 

ここ数年読んだ本の中でも随一の強烈なインパクトを残してくれた岡檀さん(かってに「おかだん」さんと呼んでいる)の本でした。おすすめです。

 

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